今回の企業分析では、[1909]日本ドライケミカルという企業を取り上げたいと思います。
これまで記事にしてきた企業はトヨタ自動車やNTTなど、どれも大型株の企業でしたが、今回紹介する日本ドライケミカルの時価総額は2024年10月11日時点で、およそ221億円と小型株に当てはまります。
大型株、小型株の違いや投資への活かし方については、こちらの記事も参考にしてみてください。
日本ドライケミカルの主な事業としては防災設備の施工やメンテナンス、防災用品の販売となっています。今回は普段はあまり聞き馴染みがない企業をあえてピックアップして、小型株企業の特徴や将来性、投資対象としての魅力などを考察していきたいと思います。
日本ドライケミカルの企業概要
企業概要
会社名 | 日本ドライケミカル株式会社 |
---|---|
証券コード | 1909 |
本社所在地 | 東京都北区田端6-1-1 田端ASUKAタワー 18階 |
設立 | 1955年(昭和30年)4月23日 |
資本金 | 7億円 |
発行済株式の総数(自己株式を含む) | 7,181,812株(2024年3月31日現在) |
事業内容 | 下記の設計・製造・販売・施工・保守 ・各種消火設備 ・各種自動火災報知設備 ・各種消火器 ・各種消火薬剤 ・各種船舶用消防設備 ・各種消防自動車/特殊車輌 その他 |
事業セグメント
日本ドライケミカルが手掛ける事業は大きく以下の3つに分類されます。
- 防災設備
- メンテナンス
- 防災商品
防災設備
防災設備に関しては施工する施設で更に細分化されており、オフィスビルやトンネル、ショッピングセンターなどに設置されるスプリンクラーや二酸化炭素を使用した消火設備、トンネル向けの防災設備などの製造、施工、保守を手掛けています。
また、火力発電所や変電所といった危険を伴う施設での施工実績のほか、大型タンカーやフェリー、貨物船といった船舶に搭載する設備、データセンターやクリーンルームなどの特殊な環境下で利用する防災設備の施工実績があることも特徴的です。
メンテナンス
施工した設備の点検もサービスとして提供しています。こうした設備の点検には製品知識だけでなく、深い専門知識と技術が必要とされます。例えば、スプリンクラーなどの消火設備が設置された建物の管理者は、定期的な点検と報告が義務付けられています。こうした消火設備の点検には、消防設備士または消防設備点検資格の有資格者でなければ、点検を行うことができません。
納入先が設備の一部やサポートだけを別の企業に変えることは変更にかかるコストや労力が非常に大きいので、新規参入企業が出てきたとしても既存顧客が乗り換えることは起きにくいでしょう。
製品の製造から施工、アフターサポートまで一貫してサービス提供していることは簡単に真似できるものではなく、大きな強みと言えます。収益の面から見ても、設備の導入による収益だけでなく、その後のサポートを継続して行うことで安定的に収益を得られることも大きなポイントとなります。
防災商品
防災商品には消化器や学童用の防災頭巾などの、防災設備の導入先で常備しておく用品のほか、ヘルメット、防災用品のセットといった商品も含まれます。
防災関係の上場企業は複数ありますが、災害を未然に防ぐ防災設備から消化設備、防災用品までをカバーしている企業は他にはなく、以下の資料からも日本ドライケミカルのユニークさがわかると思います。
事業のまとめ
設備の設計製造、施工からその後のサポートまで一貫してサービス提供していることは大きな強みと言えます。
それに加え、納入先で必要となるであろう防災用品の販売まで行っているので、施設に導入する防災の一切を任せられるという安心感があることは他の競合にはないストロングポイントと言えます。
直近の業績
これまでの業績を見ると、売上高、営業利益ともに順調に右肩上がりになっています。おおよそ毎年前年比で10%前後成長しています。2015年時点では営業利益率は5%前後でしたが、直近では8.5%と大きく改善しています。
今後も成長が見込まれる分野と考えられるので、投資対象として申し分ないように思えます。しかし、2025年3月期の業績予想では、売上高で -6.0% 営業利益で -8.9% 減を見込んでいます。
ということは、来年以降は業績が下がることが見込まれる、と言えるのでしょうか?
しかし、決算説明資料を読み解くと、減少が見込まれる理由としては収益の特性として下期に売上、利益が偏重する業種であることや、大型案件は複数年にまたいで施工を行うことがあり進捗に応じた業績配分となるため、来期の見通しは常に慎重な業績予想がされていると考えられます。
実際、2024年3月度の決算においては、売上高が予想の2%上振れ、営業利益については予想の16.2%の上振れとなっています。
売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 1株益(円) | |
---|---|---|---|---|---|
前回発表予想(A) | 51,000 | 3,700 | 3,700 | 2,400 | 349.65 |
今回修正予想(B) | 52,000 | 4,300 | 4,400 | 2,800 | 409.71 |
増減額(B-A) | 1,000 | 600 | 700 | 400 | – |
増減率(%) | 2.0 | 16.2 | 18.9 | 16.7 | – |
前期実績 (2023年3月期) | 50,224 | 3,858 | 3,950 | 2,539 | 366.51 |
過去の傾向からも、来期決算でも業績の上方修正が期待されます。
株価情報
ファンダメンタルズの面では、事業の強みや業績の予想について考察してきました。次にテクニカル面で分析したいと思います。
直近5年の株価の推移は下図のようになっています。
時間足は週足で、緑の線が13週の移動平均線、紫の線が26週の移動平均線です。きれいな右肩上がりになっていて、2023年には1400円前後で一旦底を打っていますが、10/15 終値で 3,335 円と2倍超値上がりしています。
直近では、8月の終わりくらいからじわじわと上昇をし始めました。8月24日に石破茂氏が9月の自民党総裁選に立候補したことで、防災関連の銘柄に注目が集ったことが理由と考えられます。
参考:【特集】「防災」関連がトップにランク、石破新総裁の「防災省」創設構想で脚光 <注目テーマ>
9月の間は過熱感がありましたが、10月に入ってからは落ち着きを取り戻しているように見えます。
一株配当・配当利回りの推移
配当金は30円台を維持していますが、2023年3月期には期首予想から5円増配の38円、2024年3月期は期首予想が35円でしたが、期末配当の増配と特別配当の7円が追加されて50円となっています。
2025年3月期は45円が予想されていますが、2年連続の増配があったことから、今後の業績次第では2025年3月期も増配が期待できます。
年度 | 一株配当(円) | 純資産配当率(DOE) | 配当性向(%) |
---|---|---|---|
2025年3月期(予想) | 45円 | – | 10.8 |
2024年3月期 | 50円 | 1.6 | 10.4 |
2023年3月期 | 38円 | 1.5 | 10.4 |
2022年3月期 | 30円 | 1.3 | 11.1 |
2021年3月期 | 33円 | 1.4 | 10.0 |
2020年3月期 | 30円 | 1.5 | 13.4 |
株主優待
株主優待も実施しています。100株〜300株の保有で1品目、300株以上の保有で2品目を選ぶことができます。選べる品目が多いので、公式ホームページから詳細を確認してみてください。
日本ドライケミカル株保有の懸念事項
ここまでファンダメンタル、テクニカル、株情報と見てきました。業績も株価も右肩上がりで魅力的な銘柄に思えます。ここではリスクや懸念点について考察していきます。
経済環境の影響
日本ドライケミカルに限る話ではありませんが、防災設備はオフィスビルやショッピングモールなどの建物に施工するため、事業の軸となる防災設備事業は企業の設備投資に依存していることになります。
そのため、経済の低迷等で設備投資が冷え込むと設備設置の需要も冷え込むリスクが考えられます。
競争の激化
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震や、南海トラフ地震に対する懸念などで防災関連の需要が今後も伸びることが考えられます。それを踏まえると、消防車などの緊急車両製造販売でトップシェアの6455 モリタホールディングスや、直接的な競合となる防災設備の製造販売を行う6744 能美防災との競争が激化することも考えられます。
こうした中、直近の決算説明資料の中ではデータセンター向けにこれまでの煙検知システムよりも高感度なシステムの提供や、人体に影響の少ない消火ガス、コストパフォーマンスの高い自動消火装置の提供などが紹介されています。
どのような戦略で競合との差別化を図っていくかが注目されます。
まとめ
大型株、中型株は機関投資家や多くの個人投資家が注目している銘柄が多いものですが、小型株は将来性のある銘柄が見落とされていることが多々あります。銘柄の選び方や業績・テクニカル分析の基礎については、書籍や投資スクールなどで学ぶことができるので是非チェックしてみてください。
日本ドライケミカルについて多角的に考察しましたが、小型株特有の大きな成長が期待できるので、中期的に保有してキャピタルゲインを得るスタイルの投資にも適していますし、安定した配当が期待できることから長期保有にも適している銘柄だと思います。
小型株は大型株の企業よりも事業が複雑ではない分、分析にかける時間も少なくすみます。決算短信をよく分析することで企業の将来性や事業の特性などを抑えておくことが肝要です。決算短信の読み方や確認しておくべきポイントについては、こちらの記事で解説しています。
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