業績を知るためには決算短信を見るといいって聞いたけど、どう見たらいいの?
決算短信とは、企業の決算の要点をまとめた書類です。企業の業績や経営状況は投資判断の重要な要素ですから、株式投資をおこなう方なら一度は決算短信を目にしたことがあるかもしれません。そして「何だか難しそう」と苦手意識をお持ちではないでしょうか。
そんな方に向けて、本記事では決算短信の基本的な見方を解説していきます。
1. 決算短信とは?
はじめに、決算短信の概要と、似たような書類である有価証券報告書との違いを整理していきましょう。
1-1. 決算短信の概要・目的
決算短信をひと言で表すと「決算の速報」です。企業が四半期ごとにおこなう決算のうち重要な部分をいち早くまとめて開示するものです。年度末に開示される決算短信を「通期決算短信」、第1四半期〜第3四半期の決算に関するものを「四半期決算短信」といいます。
また決算短信の目的は決算情報の速やかな開示です。通常、決算の正式な結果発表は決算期末から3ヵ月以上先です。しかし決算の情報は投資家の投資判断に大きな影響を与えるため、その重要性から決算の「速報」として決算短信が開示されます。したがって、決算短信には一部推測が含まれる点が特徴です。
1-2. 有価証券報告書との違い
有価証券報告書は年度末の決算の確定情報をまとめた書類で、通期決算短信の開示後に有価証券報告書が開示されます。決算短信と有価証券報告書の大きな違いは、情報量、正確さ、開示のタイミングの3つです。
決算短信 | 有価証券報告書 | |
---|---|---|
情報量 | 数十ページ程度 | 100ページ以上 |
正確さ | 予想が含まれる | 確定情報が記載される |
開示タイミング | 決算期末から45日以内 | 年度末から3ヵ月以内 |
有価証券報告書のページ数が多い理由は、決算の確定情報以外にも詳細な事業内容や事業環境、役員や大株主の状況、設備の状況などが記載されるためです。開示の時期も年度末から3ヵ月以内と決算短信よりも後になります。
2. 決算短信の主要な項目を理解しよう
では、決算短信には具体的にどのような情報が記載されているのでしょうか。ここでは情報のカテゴリ別に、おもな項目を紹介します。
2-1. 経営成績に関する項目
決算短信の1ページ目には経営成績を表す下記の項目が並んでいます。
- 売上高:商品やサービスを提供して得た対価
- 営業利益:売上高から原価と「販売費及び一般管理費」を引いたもの
- 販売費及び一般管理費:人件費や賃料など、商品の販売にかかった費用
- 経常利益:営業利益から営業外収益・営業外費用を足し引きしたもの
- 営業外収益・営業外費用:預金利息や借入金の利払い、為替の差損益など
- 当期純利益:経常利益から特別利益・特別損失、国に納める税金を足し引きしたもの
- 特別利益・特別損失:株式の売却によって得た利益、災害などで発生した損失など
言わずもがなですが利益は大きいほど高評価となり、なかでも営業利益、当期純利益にはとくに注目です。営業利益は事業そのものでどれだけ稼げているか、当期純利益は配当金の源泉となるためです。
2-1. 財政状態に関する項目
同じく決算短信の1ページ目には、資産や資本に関する項目も記載されています。
- 総資産:企業が持つ、資本と負債の合計額
- 純資産:総資産のうち負債を除いた額(返済義務のないお金)
- 自己資本比率:総資産に占める純資産の割合
自己資本比率は企業の財産をどれだけ自己資本で賄えているかを示す値です。高いほうが借金の返済負担が軽く、財務の健全性が高いと評価できます。なお、各企業によって純資産を「資本合計」と表示する、自己資本比率を掲載しないなど多少の違いがあります。
2-3. キャッシュ・フロー状況に関する項目
お金の流れを表すキャッシュ・フローは、通期決算短信の1ページ目を確認しましょう。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー:本業の営業活動に関する現金の流れ
- 投資活動によるキャッシュ・フロー:設備投資や設備の売却などに関するお金の流れ
- 財務活動によるキャッシュ・フロー:資金調達や借入金の返済に関するお金の流れ
営業活動によるキャッシュ・フローがプラスの場合、本業で多くの現金を稼げていると評価できます。投資キャッシュ・フローのプラスは設備の売却などを表し、マイナスだと一般的には積極的な設備投資を意味するため、マイナスだからといって悪いわけではありません。
また財務活動によるキャッシュ・フローは、調達した資金が借入金などの返済額より多い場合にプラスとなります。借入による資金調達もプラス要因となるため、単にプラス・マイナスだけでは評価できません。資金調達の目的や借入金の額などを探っていく必要があります。
2-4. 業績予想
四半期決算短信の1ページ目にはその期の業績予想が、通期決算短信の1ページ目には次期の業績予想が記載されており、投資家からの注目度の高い項目のひとつです。
くわしくは後述しますが、今期の業績や事業の状況などをふまえて無理のない数字かどうかを見極めていきます。
3. 決算短信を読む際のチェックポイント
さて、決算短信の基本的な項目をどのように投資判断に活かしていけばよいのでしょうか。ここではポイントを4つ紹介します。
3-1. 利益の伸び率の推移
業績が黒字か赤字かだけでなく、利益の伸び率に注目しましょう。決算短信の1ページ目には、各種利益とともに前期(前年同期)からの増減率も記載されており、利益の伸び率が大きいほど成長している・好調であると判断できます。
ただし、前期の数字が特殊だった可能性もあります。過去3年〜5年を遡り、急激な変化がなかったか、安定して成長しているか、伸びは鈍化していないかなどもチェックしましょう。利益が前期比でプラスだったとしても、伸び率が減少している場合などは注意が必要です。
3-2. 目標の達成状況
前期の決算短信に書かれている業績予想や、決算説明資料に書かれている目標業績を達成できているかどうかにも注目です。
目標を達成できていれば計画通りに経営が進んでいるといえますし、目標を上回る達成であれば好調と評価できるでしょう。一方で未達の場合は何か特殊な要因があったのか、恒常的に不調な事業がないかどうかをさらに調べていきます。複数の事業を営む企業の場合、決算短信の「セグメント情報」をみると、事業ごとの売上高や利益比率が確認できます。
次期の業績予想や企業が発表する資料をもとに不調が続きそうだと判断できた場合は、売却(購入を控える)を検討したほうがよいでしょう。
第1四半期の決算で、通気の目標の25%ほどの進捗であれば合格点と言えそうですが、業種によっては売上の多くが年度の後半に集中する場合があるため、その企業の収益の仕組みに季節性がないかを過去の決算短信と見比べることも重要です。
3-3. 市場の予想との比較
利益の伸び率や目標の達成状況を確認したら、今度は市場の予想とどれくらい差があるのかをチェックします。市場の予想は、証券会社のアナリストたちによる業績予想の平均値である「コンセンサス」を参考にするとよいでしょう。
コンセンサスを上回る業績はポジティブなサプライズとなり、株価の上昇要因です。一方で、業績が成長していたとしても、伸び率がコンセンサスを下回っていれば「期待外れ」として株価の下落要因となります。ただし、コンセンサスは必ずしも正確なわけではありません。あくまで参考程度に留めておきましょう。
なお、コンセンサスは証券会社のWebサイトや日経新聞などの金融ニュースサイトで確認できます。
3-4. 業績予想の修正
四半期決算短信の業績予想では、直近で公開された業績予想からの修正の有無が記載されています。「有」の場合は、修正内容とその大きさを調べましょう。
大幅な上方修正であれば好業績・株価の上昇が期待できますし、反対に下方修正された場合は投資家に不安感を抱かれ、株価の下落を招きます。
また、新規事業に取り組んでいる企業については、新規事業の進捗を「経営成績等の概況」などから探ってみましょう。新規事業は利益を生み出すまでに一定の時間がかかり、立ち上げにはコストもかかるため、進捗状況によっては業績予想に大きく影響している可能性があります。
4. 決算短信の入手方法
決算短信は誰でも無料で入手できます。おもな入手方法は下記の4つです。
- 各社Webサイトの「IR情報」ページ
- 東京証券取引所の「適時開示情報閲覧サービス(TDnet)」
- 証券会社の株式情報ページ
- 金融情報サイト(Yahoo!ファイナンスなど)
多くの企業が公式サイトで「IR情報」や「投資家のみなさまへ」といったページを設けており、決算短信だけでなく決算説明資料や投資家向けの資料が手に入ります。まずは企業の公式サイトを訪れるとよいでしょう。
TDnetでは直近1ヵ月以内の決算短信を入手できます。決算短信の公開日や期間を指定して検索できるほか、キーワードによっても検索できます。
また証券会社や金融情報サイトでは、株式の個別銘柄情報を表示した後「適時開示」を選択すると決算短信や有価証券報告書などの入手が可能です。
出典:トヨタ自動車(株)【7203】:適時開示情報 – Yahoo!ファイナンス
決算短信の基本を押さえたら次のステップへ進もう
本記事では、決算短信を株式投資に活かすための基本的な読み方を解説してきました。
ひとつの項目だけで投資判断をおこなうのではなく、各項目どうしの関連づけや、過去の決算短信、決算説明資料などの関連づけから総合的に判断していきましょう。
さらに株式投資の成功確率をあげるためには、決算短信の読み解きのほか、政治経済の動向、業界動向、為替の動きや世界情勢、チャートの読み方など広く深い知識が必要です。
書籍にすれば何十冊と大変な読書量を要しますが、セミナーなら網羅的に学習できるものもあります。
決算短信からより深く業績を分析できるようになりたい、相場状況や業界動向も含めてより総合的に企業を分析できるようになりたい方は、株式投資スクール
株式投資に関する効果的な勉強方法についてはこちらの記事でくわしく解説していますので、ぜひご覧ください。
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