今回は、当ブログではあまり取り上げてきていなかった IT 業界に焦点を当てて、3692 FFRIセキュリティという企業を取り上げたいと思います。
FFRI セキュリティはサイバーセキュリティ専業のソフトウェア開発企業で、セキュリティソフトでは珍しく純国産のセキュリティソフトを開発、提供しています。セキュリティソフトというと、ノートンやマカフィー、トレンドマイクロなどの企業を耳にしたことはあるのではないでしょうか。
昨今では個人のPCを標的とした、マルウェア※1やランサムウェア※2のセキュリティ被害だけでなく、官公庁や自治体を標的としたサイバー攻撃も数多く発生しています。サイバーセキュリティの分野は今以上に需要と重要性が増し、電気やガス、医療などと同様に生活基盤を支えるインフラになっていくと考えています。
今回はFFRIセキュリティがどのような事業を展開しているのか、株式情報や事業継続でポイントとなる点などについて詳しく解説、分析します。IT関連企業は事業内容や業績を読み解くことが難解な事が多いので、できるだけ分かりやすく解説します。
IT 関連株が気になっている方や、先進技術を扱う企業に興味のある投資家のお役に立てたら幸いです。
※1 マルウェア:ウイルスやワームなどに代表される、個人情報やコンピュータに保存されている情報を流出させたり、不正なソフトウェアをインストールするなどの被害を与える、悪意のあるソフトウェアの総称。本記事でも以降、悪意のあるソフトウェアをマルウェアと記載します。
※2ランサムウェア:データを不正に暗号化し、暗号化を解除するために金銭を要求する悪意のあるソフトウェアを指す。データを人質として、身代金(ransom、ランサム)を要求することから。
FFRI セキュリティの企業概要
企業概要
会社名 | 株式会社FFRIセキュリティ (FFRI Security, Inc.) |
---|---|
証券コード | 3692 |
本社所在地 | 東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル2階 |
設立 | 2007年7月3日 |
資本金 | 286,136,500円(2019年3月31日現在) |
発行済株式の総数(自己株式を含む) | 8,190,000 株 |
事業内容 | ・コンピュータセキュリティの研究、コンサルティング、情報提供、教育 ・ネットワークシステムの研究、コンサルティング、情報提供、教育 ・コンピュータソフトウェア及びコンピュータプログラムの企画、開発、検証、販売、リース、保守、管理、運営及びこれらに関する著作権、出版権、特許権、実用新案権、商標権、意匠権等の財産権取得、譲渡、貸与及び管理 ・コンピュータハードウェアの企画、開発、製造、検査、販売、リース、保守、管理及び運営 ・労働者派遣事業 ・上記事業に関連する一切の業務 |
事業セグメント
FFRIセキュリティでは、サイバー・セキュリティ事業とソフトウェア開発・テスト事業の大きく2つの事業があり、この内サイバー・セキュリティ事業は更に3つの事業に分けられます。
- ナショナルセキュリティセクター
- パブリックセクター
- プライベートセクター
コアの事業であるサイバー・セキュリティ事業の3つの事業について詳しく解説していきます。
ナショナルセキュリティセクター
ナショナルセキュリティセクターは防衛省や自衛隊、防衛関連企業などの国家安全保障に関する機関や企業に対して、セキュリティ製品の提供や、セキュリティ分析、人材育成などのサービスを提供しています。
特に国家安全保障に関する分野は、国家機密などの最も秘匿性の高い情報を取り扱うこともあり、他の事業とは完全に切り離されていると思われます。
収益の内訳を見ると、製品ライセンスによる売上よりも人材育成やサイバーセキュリティに関する研究、調査などのサービス提供が業績の軸になっているようです。
特に防衛省、自衛隊でのサイバーセキュリティの取り組みは非常に顕著で、これまでの陸海空に加えサイバー空間での防衛は重要性を増しています。自衛隊でのサイバー専門部隊の増員も計画されており、今後ますます国防の面での需要は高まっていくと予想されます。
パブリックセクター
パブリックセクターはナショナルセキュリティセクター以外の官公庁を対象とした製品の販売やセキュリティ分析、調査研究、ソフトウェア開発などのサービスが含まれます。
サイバー攻撃は年々増加しており、官公庁を標的とした攻撃もその例外ではありません。
2024年7月には各省庁に設置されているネットワーク機器のソフトウェアに、脆弱性※3がないか24時間監視する取り組みが始まりました。
サイバー攻撃への対策強化に向けて、政府は各府省庁のネットワーク機器のソフトウエアなどに攻撃されやすい、ぜい弱な部分が生じていないか、24時間監視する取り組みを22日から始めました。
※3 脆弱性(ぜいじゃくせい):開発者の意図しない動作やソフトウェアの不具合によって引き起こされるセキュリティの弱点や欠陥。悪意のある利用者が脆弱性を利用して不正アクセスや、サイバー攻撃を試みることが多い。
プライベートセクター
プライベートセクターは民間企業や個人を対象とした、マルウェア解析ソフトや、エンドポイントセキュリティソフト※4のライセンス販売がここに含まれます。売上の内訳を見ると、個人向けの製品よりも法人向け製品の売上が多いことがわかります。
上述したようにサイバー攻撃は年々増加しており、企業の持つ個人情報の流出やランサムウェア被害を目にする機会は多くなりました。
※4 エンドポイントセキュリティ:パソコンやタブレットなどの末端(エンドポイント)にあたるデバイスにインストールして利用するセキュリティ対策ソフト。ウイルス対策だけでなく、デバイス内のデータの暗号化や不正なウェブページへのアクセス遮断など、包括的なセキュリティ機能を提供するものがある。
FFRIセキュリティの強み
FFRI セキュリティの強みとして2つあげられます。
- 純国産のセキュリティソフトを開発、販売していること
- 防衛省や自衛隊、防衛関連企業などの国家安全保障に関する機関や企業などにサービス提供していること
セキュリティソフトは、ファイル構造をスキャンしてマルウェアかどうかを判別しますが、スキャンだけではなく複数の手法で検出が可能です。そのため、インストールされているPCやデータの送受信内容も含め、国家機密に触れる可能性のあるファイルやメールもセキュリティソフトによって読み取られることになります。
他国のソフトが国家機密レベルの機密情報に触れられることはリスクが伴います。また、セキュリティソフトがクラウド上のサーバーと通信することは珍しくありません。そのサーバーが他国に存在する場合、読み取ったデータが他国にデータが保存されるリスクも考えられます。
日本国内の企業がセキュリティソフトの開発と販売を行っていることは、国家安全保障に関係する機関や企業にとって、そうしたリスクを回避することができることが大きなメリットとなります。仮に国内の競合他社が参入してきたとしても、導入実績やサービスの提供実績があることは超えることが難しい参入障壁になると考えられます。
また、セキュリティソフトは IT 業界においても特に新規参入の難しい分野です。
Webサイト制作やアプリの開発などは個人でも参入できるほど参入障壁が低く、システム開発を行っている企業にとってはノウハウの横展開も容易です。エンジニアの採用が難しい場合がありますが、フリーランスのエンジニアを活用することで、独自のアプリを開発することができます。
しかし、セキュリティソフトについては非常に高度なコンピュータサイエンスの知識と秘匿性の高い開発ノウハウが必要とされます。そうした人材は希少で、同様のセキュリティソフト開発企業が優秀なエンジニアを取り合っているのが現状です。
開発エンジニアの確保や、セキュリティソフトの研究開発に多額の資金もかかることから、新規参入は簡単なことではありません。
3692 FFRI セキュリティの株価情報
過去5年の 3692 FFRI セキュリティの週足チャートです。
長く下降トレンドが続いていましたが、2022年に入り1000円台でのもみ合いが続いています。2023年11月13日に開示された第3四半期決算において、政府端末向けのセキュリティソフト開発の支援が決定したことが好材料となったのか、上昇トレンドに入りました。
開発の支援については、単純なシステム開発の受託ではなく、マルウェアの分析や情報収集なども行うことになっていることから、こうしたノウハウが製品にフィードバックされることが期待されます。
2024年以降は、値動きの大きい状況になっているものの右肩上がりのトレンドを形成しており、2024年3月期決算では売上は前期比 25.3% 増の24億4600万円、営業利益は前期比 145.3% 増の4億9700万円と、大きく業績を伸ばしています。
更に来期の業績予想では、売上高が 29.1% 増の31億5800万円、営業利益が 3.6% 増の 5億1500万円となっています。
決算短信の読み方や、投資にどう活かせるのかなどはこちらの記事もご覧ください。
一株配当の推移
FFRI セキュリティは2024年3月期に初めて配当を開始しました。2025年3月期も前期の配当を維持し、年間配当10円が予定されています。
年度 | 一株配当(円) | 純資産配当率(DOE) | 配当性向(%) |
---|---|---|---|
2025年3月期(予想) | 10円 | – | 18.3 |
2024年3月期 | 10円 | 4.02 | 18.3 |
配当性向は18.3%とやや低めですが、継続的な株主への利益還元を謳っていることから、業績次第では配当性向が今後向上していく可能性があります。また株主優待はありません。
懸念事項
ここまで 3692 FFRI セキュリティの事業内容や株価情報などを紹介してきましたが、安定的な事業を継続するにあたってリスクになる点や考慮しておくべき点についても紹介したいと思います。
エンジニア採用
優秀なエンジニアによって研究開発、サービス提供が行われています。優秀なセキュリティエンジニアは引く手数多ですので、エンジニア採用の状況がサービス提供に大きく影響する可能性があります。
IT 系のエンジニアといえば、報酬も高いイメージがありますが、例えばアメリカではセキュリティエンジニアの報酬の平均が15万2000ドル(日本円にして約2370万円)というデータがあります。
出典:ZipRecruiter|Security Engineer Salary
アメリカの物価が高騰していることも要因にあると思われますが、エンジニアの取り合いは世界規模で行われるので、海外企業に対抗していくには採用や給与などのコストは今後も上がっていく可能性があります。
採用のための広告費用などは販売費および一般管理費に含まれます。エンジニア給与は業務の内容によって、原価あるいは一般管理費に含まれるので、営業利益がどのように推移しているかを注視することが肝要となってきます。
製品への脆弱性の混入
セキュリティソフトに限らず、プログラムには意図しない不具合(バグ)や、脆弱性が含まれている可能性があります。こうした欠陥をあらかじめゼロにした状態で製品を出荷することはほぼ不可能です。
こうした欠陥が見つかった場合でも即時修正できる体制が整っていることが非常に重要です。FFRI セキュリティの提供するセキュリティソフト FFRI yarai に脆弱性が混入する可能性も当然ゼロではありません。仮に、製品に脆弱性が見つかった場合はFFRIセキュリティがその詳細と対処方法について公表しています。
しかし、2024年7月19日にセキュリティソフトのクラウドストライクが引き起こした、Windows が動作している PC がクラッシュする全世界規模のシステム障害のように、広範囲にわたる障害が発生した場合は、その対応や補填費用などで業績に影響を与える可能性も考えられます。
参考:止めたくないシステムほど止まった、原因のCrowdStrike Falconとは「何者」か
こうしたリスクについてはあらかじめ、『開示事業計画及び成長可能性に関する事項』としてリスク対応方針などが明文化されています。
参考:FFRIセキュリティ|開示事業計画及び成長可能性に関する事項 P.40
まとめ
今回は日本企業では珍しい、サイバーセキュリティ製品の開発と販売を行っている 3692 FFRIセキュリティを取り上げました。IT 業界といえば AI や Web3、メタバースなどの分野が注目されがちですが、サイバーセキュリティは国防と深く関わる堅実な領域です。国家機関や企業にとってセキュリティ対策の重要性がますます高まる中、FFRIセキュリティのような企業が担う役割は、今後も拡大していくことが予測されます。
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