
ヨーロッパを中心とした EV シフトや、カーボンニュートラル(CN)の政策はトヨタ自動車の業績や株価にどう影響してくるの?
日本を代表する世界的な自動車メーカーのトヨタ自動車。近年では自動車の進歩は目覚ましいものがあります。
ハイブリッドはごく当たり前の選択肢になりましたし、自動運転や先進的な安全装備、IoT を活用した車やヒト、サービスとのつながり、ヨーロッパを中心とした EV シフトなど、自動車業界そのものが大きく揺れ動いています。
自動車業界の動きだけでなく、SDGs の目標を達成するための様々な政策、為替相場などトヨタ自動車の業績の動向に影響する要素は多岐にわたります。
トヨタ自動車株に投資している方や、これから投資を検討している方にとって、トヨタ自動車の今後の将来性や自動車業界や、それらを取り巻く様々な動向は気にかけておきたいところです。今回はトヨタ自動車に焦点を当てて、改めてトヨタ自動車にはどういった強みがあるのか、EV シフトに対してどのような戦略を持っているのかなどを、競合他社(特に EV を専門に展開しているテスラと BYD)と比較して考察していきたいと思います。
事業内容
トヨタ自動車の事業内容は御存知の通り、自動車の製造と販売です。一言で自動車の製造と言っても多岐にわたります。
軽自動車やコンパクトカー、SUV、高級セダン、ファミリー層向けのミニバンなどといった一般的な乗用車の他に、トラックやバスなどの商用車両、車椅子などを乗せおろしするためのリフトを装備した福祉車両など、用途やユーザーのライフステージに合わせた様々なニーズに答える車種を展開しています。
また、従来のガソリン車だけでなく、ハイブリッド車、水素を使った燃料電池車などを展開しており、環境負荷低減についても取り組んでいることがわかります。


トヨタ自動車の業績
次にトヨタ自動車の直近の業績と、過去10年に遡った株価推移を見ていきます。
直近の業績
2024年11月6日に発表された、2025年3月期第2四半期の連結決算では、営業収益(売上高)は前年比で1兆3000億円増、営業利益は950億円減の増収減益となっています。


営業利益が減となった主な理由としては、販売台数の低下や日野自動車による認証不正問題の影響(図中の「日野北米認証関連」)とされています。


しかし、通年での営業利益は当初の目標通り、4兆3000億円から据え置きとなっており、後半での販売台数巻き返し、原価改善などが計画されています。
また、トヨタ自動車の業績の中で特に注目したいのは営業利益率です。競合他社と比較しても高い営業利益率となっています。
円安が進んでいることで売上高が大きく伸びていることも要因の一つと考えられますが、日本国内の競合他社と比較しても営業利益率が高いことが見て取れるので、生産性の高さも要因になっていると考えられます。
2023年3月期営業利益率 | 2024年3月期営業利益率 | |
---|---|---|
トヨタ自動車 | 7.3% | 11.9% |
ホンダ 出典:2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結) | 4.2% | 6.8% |
マツダ 出典:2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) | 6.0% | 5.2% |
Volkswagen 出典:Annual Report of Volkswagen Aktiengesellschaft 2023 ※12月決算のため、2022年12月期、2023年12月期の数値を記載しています。 | 7.9% | 7.0% |
販売台数
2024年3月期では、トヨタ自動車としては全世界で944万台の販売実績となっています。2025年3月期では当初950万台を計画していましたが、940万台の下方修正をしています。
トヨタグループの一角であるダイハツや日野自動車ブランドのほか、高級車ブランドの Lexus を含めたグループ全体での販売台数は1085万台となっています。




2025年3月期第2四半期の決算の内容を見る限り、認証問題の対応によって生産停止を余儀なくされたことによる減産が業績に与えている影響は少なくないようです。しかし、原価改善や営業努力等によって前年と変わらない利益を確保しているともコメントしているので、今後の巻き返しに期待したいですね。
カーボンニュートラル実現の取り組み
ここからは自動車業界を取り巻くファンダメンタル面でトヨタの立ち位置や戦略を見ていきたいと思います。
トヨタ自動車のみならず、あらゆる企業の将来性を判断するうえで持続可能性(サステナビリティ)が考慮されているかは重要視されるポイントです。環境への影響を様々議論されてきた自動車業界で、トヨタ自動車もカーボンニュートラル(CN)を実現するべくCO2 排出量削減や、環境負荷低減の取り組みを強化しています。
また、トヨタグループ内だけに限らず自動車メーカーや業界の枠を超え、日本の自動車業界、日本経済全体の課題として取り組んでいます。
こうした取り組みをまとめたものがBEYOND ZEROとして掲げられています。
取り組み | 詳細 |
---|---|
水素(FCEV、水素エンジン) | ガソリンに代わり、水素を燃料とした燃料電池車、発電機の開発、普及 |
電池(電池技術・電池生産) | ハイブリッド車やPHEV車などの車載バッテリーの生産や全固体電池の技術開発、生産 |
BEV(バッテリーEV) | ハイブリッド車や電気自動車などの電動車のフルラインナップ化、充電ステーションの普及など |
HEV(ハイブリッド車) | 安定的な電力や充電ステーションが整備されていない地域の選択肢、手の届きやすい価格帯としての展開 |
PHEV(プラグインハイブリッド車) | 充電可能なバッテリーを搭載したハイブリッド車として、モーター走行、ガソリン走行のいずれも可能な優れた選択肢としての展開 |
CJPT | いすゞ自動車、日野自動車との合同で設立した企業「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」で輸送業の抱える課題の解決や、業界においてカーボンニュートラル実現を目指す |
モータースポーツを通じたCN活動 | レース参加を通じて、水素やカーボンニュートラル燃料を使用したエンジンの技術開発などを行う |
燃料 | 水素やバイオエタノール、合成燃料などガソリンに代わる燃料の普及を実現するために、業界の枠組みを超えたパートナーシップを構築 |
東北地方 | 東日本大震災からの復興の取り組みが進む東北地方は、トヨタにとって重要している拠点。特に福島県はカーボンニュートラル燃料の研究、開発が行われる拠点として位置づけられている |
EV競合との比較とトヨタ自動車の戦略
カーボンニュートラルを実現するうえで重要視されているのが EV シフトです。日本では2035年までに新車販売される車はすべて EV にすることを目標に掲げています。出典:経済産業省:自動車・蓄電池産業
EV に特化した企業としてはアメリカのテスラ、中国のBYDがあげられます。トヨタ自動車がこれらの競合と明確に違うのは、2024年時点では完全に EV にはシフトしておらず、あくまで選択肢の一つとして展開していることです。




テスラもBYDも EV 車を専門に製造・販売しています。気候変動への対応やカーボンニュートラルの実現を旗印として、これまで主流だったガソリン車ではなく、EVを専門とすることで、自動車業界のゲームチェンジャーとして名乗りを上げているように思います。
トヨタの戦略
BEYOND ZERO のハイブリッド車での取り組みの説明にもあるように、地域や国によって電力事情やインフラの整備状況が異なります。
そうした国や地域では EV 車の需要そのものが低い可能性があるので、販売台数が伸び悩むことも予想されます。モーターだけでなくエンジンも使用するハイブリッド車は消費者にとって有力な選択肢となり得ます。
環境問題の解決に取り組みつつも、様々な消費者のニーズを反映したクルマ作りができるのはトヨタ自動車の大きな強みと言えるでしょう。
また、2035年の新車販売でEV100%の実現に向けた、充電スポットの拡充やインフラ整備は国を上げた取り組みになりますが、並行してバッテリー性能の向上が自動車メーカーにも求められると予想されます。
トヨタの取り組みでは、次世代BEV向けの電池の開発や、航続距離1000kmを実現するための次世代バッテリーの開発など多岐にわたる研究開発が進められています。
出典:次世代BEV向け電池と全固体電池の開発・生産に向けた「蓄電池に係る供給確保計画」が経済産業省より認定
出典:トヨタ、クルマの未来を変える新技術を公開
トヨタ自動車の過去10年の株価推移と配当性向
続いて、過去10年のトヨタ自動車の株価の推移と配当性向を見ていきましょう。


2010年代は1300円台〜1500円台で長らくボックスを形成していました。
2021年には上述したカーボンニュートラルへの取り組みが2021年3月期決算の中で示されたことで、将来の展望への期待感からか徐々に右肩上がりとなっています。直近の2024年3月期の決算では史上最高売上、利益を記録したことも加味され、株価は 3,890 円の高値となりました。
2024年6月3日に「型式指定申請における不正問題」が明らかになり、日本国内で生産している3車種(カローラフィールダー/アクシオ、ヤリスクロス)の生産、販売が停止したことで一気に株価を下げました。また、7月29日には追加で2車種(ノア/ヴォクシー)の出荷停止や、8月に入ってから日経平均株価の記録的な暴落が追い打ちをかけています。


トヨタ自動車株のメリットとデメリット
投資のメリット
年々、売上も利益も右肩上がりになっており、2024年3月期には売上、利益の最高額を更新しました。
2024年6月以降、国内で生産・販売台数が減少した中でも第1四半期決算では原価改善や、営業面での努力から増益となったことや、2025年3月期には売上46兆円と予想されていること、EV 戦略の取り組みから今後も業績を大きく伸ばしていくことが期待されます。


また、2024年5月9日〜2025年4月30日までの間、過去最高となる1兆円規模の自社株式の取得が発表されていることからも、株主還元も期待できます。
考慮すべきデメリット
昨今では2022年3月からのアメリカでの利上げをきっかけとする歴史的な円安相場が続いています。2024年12月17日に行われた FOMC では 0.25% の利下げが発表されたものの、2025年1月6日時点では1ドル156円台と依然として円安が続いています。


トヨタ自動車のような輸出株の場合、円安に動くと売上が増加しプラスの影響があると言われます。逆に円高に動くと売上が落ちマイナスの影響があります。
極端すぎる円安が続いていることについて、日銀は次のように見解を出しています。
「物価の上振れ要因であり、金融政策運営上、十分に注視する必要がある」
2024年8月21日には1ドル144〜146円前後まで円高が進みました。1円の値動きはトヨタ自動車にとって、営業利益500億円分の影響があると言われているので、為替相場に大きな影響を与える FRB や日銀の動向にも注目していく必要があります。


この他にも有価証券報告書には事業を継続するうえでの様々なリスクに触れられています。
自動車業界の競争激化や自動車の需要変動、情報セキュリティの対策、人材確保などがあげられます。特に原材料の価格上昇については、自動車の生産や次世代バッテリーの安定的なサプライチェーン構築に関わります。国内外のインフレの動向や為替相場の影響も受けるほか、原材料調達にかかる地政学的なリスクも孕んでいるため、多方面の動向を抑えておく必要があります。
まとめ
ここまでトヨタ自動車の業績や強み、EV 戦略、株価の推移などの情報をまとめてきました。世界的に EV シフトの潮流がある中で、トヨタ自動車独自の強みを生かした戦略がどのように業績に反映されるかは注目が集まります。
その一方で、世界トップの自動車メーカーであり、日本を代表する企業でもあることから、カーボンニュートラルに対する政策や、為替相場、バッテリーの生産に不可欠な原材料を調達する際の地政学的なリスクなどにも注意が必要になります。
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